■そんな簡単にはいかないのではという疑問
①売りに出るのは価値のない会社なのでは?
今の中小企業の廃業要因のうち、半数以上が「黒字廃業」しているという実態があります。
2017年の調査によれば、国内企業の3分の2(約250万社)が「後継者不在」。社長が60歳以上の会社が約200万社あり、そのうち100万社が後継者不在です。
経産省の試算では2025年ごろまでの累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが減少するとされています。事業継承が進まないことが日本社会、日本経済全体の課題になりつつあります。
中小企業の多くは社長がワンマン経営で従業員は単純な業務しか任されていないケースが多く、従業員たちに経営能力がない場合が多い。黒字でも様々な理由で廃業を余儀なくされている会社が多いのです。
すなわち、売りに出るのは価値のない会社ばかりではありません。
②優良な会社は高いのではないか?
企業の売却情報がオープンに売りに出されることはありません。
広く流通することなく本当の企業価値を知る人とのマッチングもしにくい。適正な価格で取引されていないケースが多いため優良な会社が必ずしも高いというわけではないようです。
ちなみにM&Aに慣れている企業でよくあるのは、BSの「資産」から「負債」を引いた「純資産」に、営業利益の3年分から5年分を足した合計金額をベースにすることです。
また、自己資金がなくてもLBO投資など(レバレッジドバイアウト投資=株式譲渡の金額を借入金で賄い、事業から生み出される将来の利益で返済すること。)を使えば優良企業を買うことが可能です。
③落ち目の産業の会社を買っても未来がないのでは?
既存の産業が縮小するとしてもニーズの変化を捉え、新しいニーズに新しいサービスを提供していけば良いのです。
落ち目に見える産業にこそ、あなたが経験してきた経営ノウハウを生かせる場所があり、そのほうがはるかに成功の可能性が高いと思います。
■売却情報を得て、実際にどのように買収を行うか?
M&A仲介会社の拡大により売却情報は昔ほど極秘情報ではなくなってきており、ネットを通じた会社売買の情報流通が浸透し始めています。
各都道府県に「事業引き継ぎ支援センター」が設置されておりマッチングサポートも行っています。ただ、企業の収益性やリスクなど総合的かつ詳細な調査は必要です。
■買収先候補の役員になるという手段
素人に企業の調査ができるかというと実際は難しく、公認会計士や弁護士、戦略コンサルに依頼するケースが多いのですが、中小企業にそこまで費用をかけるのはもったいないでしょう。
そこで筆者がおすすめするのは、ある程度の期間を買収候補先企業で役員(専務)として働くことです。例えば2年間、その間にデューデリジェンスと社長の引継ぎを行うのです。
2年間で改革の成果が出てきて社員たちからの信任を得ることができれば喜んで迎えてくれることでしょう。
■取引先を買うという手段
大企業に勤務しているうちに勤務先にもメリットがある形で買収対象となる会社を優遇し、業績を良くしてあげてから社長になるというやり方法もあります。
■もし経営に失敗したら
国の要請のもと、新規融資の際に個人保証をつけないこと、事業承継時に経営者保証が解除されるようになりました。
つまりM&Aのリスクは買収資金のみ。その買収資金も会社の財務状況によっては社長の個人保証無しに銀行から借りることが可能ですのでリスクはかなり軽減できるような環境になっています。
■何もしないというリスク
企業経営には確かにリスクはあります。
しかしこれからの日本社会では「何もしないでいること」も人生を危機に晒す一つのリスクになるのです。